令和6年(2024年)5月23日
一般社団法人日本POPサミット協会
会長 安達 昌人
一年中でもっとも爽快とされる時候、皆様には元気にお過ごしのことと思います。
今回は、「広告」の功罪をテーマに、書いてみることにします。
私たちの生活の周囲にはさまざまな広告が溢れ、また、私たち自身も広告に関わる仕事に携わっています。広告は、社会生活活動の重要な一端を担っています。
さて、広告の功罪については、いくつかの観点から論議されていますが、
まず、「功(メリット)」を挙げれば、
では、「罪(デメリット)」を挙げれば、これはきわめて複雑で多様な状況です。
以上、広告の功罪を見てみましたが、「功」よりも「罪」の露出度が顕著になっていることは確かであり、それが今日の情況でしょう。
かつては、マスコミを中心に一方的に流れていた広告が、今は誰もが発信し自在に加工出来るデジタル媒体によって、多様な面を持つようになっています。犯罪的な意図の広告もあるとともに、規制を緩和されたごく日常的な広告が、弊害をもたらすことも起こり得ます。
では、私たちPOP広告クリエイターは、広告に関してどう対応すべきなのか。
例えば、ある企業商品のPOP広告を作成する際には、そこに訴えている文言を鵜呑みにすることなく、客観的な判断力により、その商品について十分に調べた上で、購入する消費者に本当に役立つ情報を表現することが肝要です。文案も誇大にならぬよう注意します。
当然のことながら、有用な情報を、いかに適切な文案でメッセージするかは、限りなく難しい事項であり、私たちの今後の大きな課題になってくるものと言えます。
以上
令和6年(2024年)1月1日
一般社団法人 日本POPサミット協会
会長 安達昌人
明けましておめでとうございます。
会員の皆様には、つつがなく新年をお迎えのこととお喜び申し上げます。
一般社団法人 日本POPサミット協会は、昨年8月1日をもって第13期を迎えました。
新型コロナの感染状況もようやく小康を得て、社会全体の活動も息を吹き返し、当協会も昨年は、「第22回サミット(全国大会)」の実施、会報誌《新春号、夏号》の発行、各界へのセミナー講師派遣など、好ましい事業の成果を見ることが出来ました。
特に「サミット」は、親子をターゲットにした地域密着の新しいタイプの催しとなり、併せて、商店の人達対象のブラックボード講習会も実施できて、実りある年となりました。
片や、世界の情勢を見ると、他国に侵入して民衆の生活を破壊する激烈な戦闘が各地で相次ぎ、それによって物流も阻害され、また自然環境の破壊による農・海産物の不作など、日本はもとより世界の人々の日常生活に著しい影響が出ている現状です。
では何故、戦争を起こすのかと言えば、自国の富を増大させる、そのために領土を拡大する、また人種的・宗教的な差別感で相手を蔑視する、などの傲慢な意識によって、共存共栄を保ってきた均衡が崩れ、昔の戦国時代と同じ様相を呈しているのです。
良寛の和歌に「いかなるが/苦しきものと/問ふならば/人を隔(へだう)る/心と答へよ(世の中で何が一番見苦しく悲しいものかと聞かれたら、それは人を分け隔てする心だと答えなさい)」という作品があります。自国ファースト、自分ファーストという勝ち組的な競争原理の通用する世界は、人間にとって最も大切な絆を壊してしまうのでしょう。
ところで、昨年11月に、ビートルズの最後の新曲として「NOW AND THEN(ナウ・アンド・ゼン)」が日本と世界で同時発売され、話題になりました。ジョン・レノンが自宅で録音したというバラードのラブソングですが、雑音を取り除き、ポール・マッカートニーなどの旧メンバーを参加させるという、最新のAIの技術で完成させたコレクションとのことです。
これを機に、ジョン・レノン、またビートルズの人気が再燃しています。
ジョン・レノンの「ギブ・ピース・ア・チャンス(平和を我等に)」は、かつてベトナム戦争への反戦歌としても歌われた代表作ですが、ガザ地区爆撃に反対するニューヨークでの集会で歌われている風景が、テレビで報道されていました。時空を超えた平和のアピールです。先ずは、一刻も早い戦争の終結が望まれるものです。
さて、今日の経営戦略の主流が、生成AIの技術に負うところが大であることは、誰もが認めるところです。デジタル化にいっそうの拍車がかかることでしょう。
私も、iPadにインストールした「ChatGPT」に質問してみました。
問い:「私達はPOP広告の作成及び指導を事業とする一般社団法人です。新年に当たり、会員を奮起激励する文句を、3例ほど挙げてくれませんか?」
すると、例によって「もちろんです」という言葉の後に、
1,「新しい年、新たな飛躍の始まり。一緒に未来をPOPに彩りましょう!」
2,「POPの力でビジョンを共有し、一緒に成長する素晴らしい年にしましょう。」
3,「結束力ある仲間たちとともに、2024年をPOPな成功へのステップとしましょう!」
と、すぐさま答えてくれました。いずれも優等生的な回答で、参考にはなると思います。
手元に届いた業界誌や会報に、各界の代表者の新年の抱負が述べられていますが、かつての「躍進」「挑戦」などの高らかに訴える文言は影を薄め、「確実に歩む」「堅実な進展」「停滞から成長へ」などの言葉が目に入ります。
確かに、私たちも常に「停滞から脱却し、着実に進展する」ことは大切だと言えます。
ただし、デジタル重視のみの戦略には、問題が残ると考えます。
例えば、東京都の小池知事が、昨年末に、子育て支援の一環として、来年度の「高校授業料の無償化」を表明したのに対して、タレントで事業家のH氏が自身のYouTubeチャンネルで、「この方策は愚策である」「Googleや生成AIが主流の時代において、高校では遅れた内容を教えている」と痛烈に批判して、賛同する人もいたようです。
高校授業料の無償化の賛否はともかく、H氏の発言はデジタル偏重の勝ち組優先の主張だと思います。基礎的な知識や思考を身に付けることで、心の豊かさが生まれ、共に学び競う共同学習によって、大人として人間の絆の大切さも身に付くものと思われます。
ちなみに、昨年のNHK大河ドラマの「どうする家康」は、絆を重視するコンセプトが底流にある物語です。主人公の徳川家康は、これまでに登場した英雄と違って、優柔不断で弱気な人物像が異色でした。家康は織田信長や秀吉とは異なるパーソナリティで、誰をも公平に扱う人間的な絆を深めて、様々な個性の家臣の助力に支えられ、他の武将が果たせなかった自己の戦略を成就し、幸運な生涯を送ることになります。
今や「デジタル化」重視の風潮にあって、その対極にある「アナログ」が軽視されがちです。これば「アナログ」が「アナクロニズム(時代遅れ)」と混用され、デジタルに対比して、古い時代のもの、古い手法と誤って解釈されるためです。正しくは、データの連続的な変化を物理量で表わすのが「アナログ」であり、「デジタル」は連続的な量を段階的に切って数字で表すことを指す言葉です。人間の手によるクリエイティブ作業など「アナログ」でなければ出来ない重要なものも数多いのです。
私たちは、デジタルを取り入れながら、アナログの感性も大切にするという両輪を踏まえて活動していきたいと望みます。
そして、今日の進路の要とされているのが、SDGs(エス・ディー・ジーズ=持続可能な開発目標)であり、それを基盤としたDX(デジタル・トランスフォーメーション)です。
SDGsは、発展途上国のみならず,先進国自身が取り組むユニバーサル(普遍的)なものであり,地球上の「誰一人取り残さない(leave no one behind)」ことを誓っています。
この目標達成のためには、デジタル化とともに、アナログ的感性も重視されています。
ということで、英文に「We are steadily making progress. (私たちは着実に前に進んでいく)」という格言がありますが、私たちの日本POPサミット協会も、本年は「常に前向きに、堅実な進展」を指針として、POP広告を主軸とした販売促進活動を基に、売りの現場で、また教育指導などあらゆる場にあって、着実な事業活動を図りたいと願います。作品の制作や教育において、商品情報を書き込む際には、サスティナブルな理念に基いて訴えることを大切にしたいものです。「ウエルビーイング (Well-being):誰にとっても本質的に価値ある状態、その人の自己利益にかなうものを実現した状態)」を、誰もが得ることが出来る良き商業環境づくりへの情報提供が、POP広告の果たすべき役目だと言えます。
新しい年を迎えて、協会もさらにいっそうの発展を目指したいと願いますので、どうぞ会員皆様のご賛同とご協力をよろしくお願い申し上げる次第です。
令和5年(2023年)6月15日
一般社団法人日本POPサミット協会
会長 安達 昌人
季節の移り変わりが足早ですが、皆さん方には、お元気にご活動のことと推察します。
さて、スポーツのビッグイベントの話題としては、今年の3月22日に「2023 WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)」で、侍ジャパンが決勝戦でアメリカを下して優勝し、喜びのニュースは長期間に及びました。大谷翔平ブームは今もいっそう盛んです。
昨年の11月~12月には、「FIFAワールドカップ2022」がサッカーファンを熱狂させました。日本は対コスタリカ戦で敗退しましたが、その時、森保一監督が選手たちにかけた励ましの言葉の一節が、注目されました。
「過去は変えられないが、未来は変えられる」、つまり先を目指して奮起しようというもの。
この言葉は、正確には「他人と過去は変えられないが、自分と未来は変えられる(You cannot change others or the past. You can change yourself and the future.)」 といった文言の引用で、カナダの精神科医エリック・バーン(Eric Berne)の名言とされるものです。⦅エリック・バーン著「人生脚本のすべて」(星和書店)⦆
他人とは、相手に対して変わるためのキッカケを作ったり、背中を押してあげることは出来るが、最終的にはその本人がどう判断し、どう行動するかという問題で、だから、他人を変えることは出来ない。
自分が変わるのは、すべて自分自身の問題なので、意識的に自分を変えることができる。未来も同様に、自分自身の努力しだいで変えることが出来るというものです。
というわけで、自分が今のまま何もしなかった場合は、何もしなかった未来が訪れ、何か大きな変化を起こした場合は、未来も変わるということになります。
以上が、エリック・バーンの言わんとしている、誰にでも納得できる理論です。
しかし、自分を変えるということは、実際には、それほど簡単ではないでしょう。
そのヒントの一つは、まず「今いる環境をガラッと変えると、自分を変えられることができる」というもの。環境を変えれば、新しい課題にぶつかる、出会う人も変わる、そして新たな発見が生まれて、新たな考え方が出来る。そうすると、新たな行動を起こせ、行動が変わっていけば、新たな結果が生まれる、ということです。なぁ~だ、と思われるような、しごく当たり前のヒントです。
大切なのは自分自身が変わることを決意して、環境を変え「新しいことをする」。つまり、知らないことに挑戦することの重要さを説いていると言えます。
とは言え、会員の皆さんには、すでにもう、いろいろと新しいことに挑戦されているのではないでしょうか。環境をガッラと変えるかどうかはともかく、例えばIT関連の新しい技法を学んだり、身近な園芸に取り組んだり、楽器をマスターすべく教室に通ったりと、それなりに「自分磨き」をされていると思います。
私事で恐縮ですが、今の自分にもう未来はないことを心得てはいるものの、やはり自分を変えるべき、というささやかな願望で、最近、「英会話セット」をネット購入してパソコンに取り入れました。今さら英会話と言ったところですが、実は「英語」の教職員免許証を持っていながら、ヒヤリングは苦手。アメリカに旅行した時、帰る頃にようやく、現地の人達の話を少し聞き取ることが出来た程度です。
訪日する欧米の人達と話して、その地の事情を知りたいと思います。そして、可能ならば、オーストラリアに旅行してみたいとも願います。
何故、オーストラリアなのか。「SDGs報告書2022版」(毎年6月に発表)の達成度ランキングで、オーストラリアは6位とかなり高いためです。オーストラリアは、達成項目の中で「14:海の生物多様性」「15:陸の生物多様性」の面で、優位にあるようです(ちなみに達成度で1位~3位は、北欧のフィンランド、スウエーデン、デンマーク。一方、日本は19位と低いランク)。生存多様性に優れ、比較的訪れやすいオーストラリアの自然環境に触れてみたいものです。
今一つは、「エシカル消費」を自分の新しい課題に出来ないか、ということです。
皆さんは「エシカル消費」のことをご存じですか?
「エシカル(Ethical)」は「倫理的な」という意味で、気候変動や人権損害などの社会問題を考えながら、モノを買ったりすることです。
気候変動については、例えば、2022年にパキスタンで発生した大洪水により、国の3分の1が水没し、1700人以上が亡くなっているように、世界の気象災害は過去50年間で5倍に増加していると言われます。
国連気候変動に関する政府間パネル(JPCC)は、「人間活動が地球を温暖化させてきたことは、疑う余地がない」としています。
生物多様性も危機的状況です。環境NGOのWWF(世界自然保護基金)は、1970年と比べると、生物多様性は約70%も減少していると報告しています。
人権面での課題も重大です。世界の子どもの10人に1人が児童労働に従事していて、カカオやコットンなどの生産で、かなりの過剰な児童労働が行われているようです。私たちに身近なチョコレートや衣服は、子供たちの労働に支えられているのかもしれません。《以上は「エシカル白書2022~2023」より》
こうした課題に対して、消費者が出来ることは、人権、社会、地球環境に配慮した商品やサービスを選ぶこと、すなわち、目の前の商品がどのように作られ、自分は何を選んでどう使うか、モノの過去・現在・未来を考えての選択が「エシカル消費」とされます。
ただし、「エシカル消費」は幅広い分野にわたるため、何から始めればよいかは難しいところ。身近なものとして「認証ラベル・マーク」は、その基準の一つとされます。
途上国の人権に配慮した「国際フェアトレード認証」や、水産資源と環境に配慮した漁業で獲られた証しであるMSC「海のエコラベル」、農薬や化学肥料などの化学物質に頼らない「有機JASマーク」、社会・経済・環境(持続可能性の3つの柱)の強化につながる手法で生産された「レインフォレスト・アライアンス認証」、正しく管理された森林から生産された林産物の使用に関わる「FSC認証」、オーガニックコットンの世界基準により日本で製造されたことを示す「JOCA会員ラベル」などがそれに当たります。
認証ラベル・マークのいろいろ
国際フェアトレード認識ラベル
MSC海のエコラベル
有機JASマーク
レインフォレスト・アライアンス認証
FSC認証
JOCA日本会員ラベル
さらに、エシカルな暮らしのルールとして「7R」も提唱されています(一般社団法人エシカル協会資料より)。すでに、おなじみの言葉も多いと思います。
●Rethink=今必要か、買う前に立ち止まって考える
●Refuse=ポリ袋など、不用のものを断る
●Reduce=使うものを減らす
●Repair=修理して長く使う
●Reuse=再使用・再利用する
●Repurpose=別のものとして再生する
●Recycle=再資源化する
私たちはこれまで、POP広告を指導したり作成する際に、消費者のベネフィットを重点としていますが、いずれにせよ、商品の購買を促すツールとして取り組んできました。
しかし、今日の状況にあって、それだけで良いのか。
モノを買う消費者にさらに賢明になってもらい、エシカルな感覚で品選びをしてもらうことが大切です。「買物は投票」という言葉がありますが、消費は商品を作り出す企業に対する意思表示とも言われます。賢い消費者が求めていることを知れば、企業もよりエシカルな商品・サービスを提供することになるでしょう。
今や日本では、デジタルな手法も含めて、経済の活発化が進められています。その状況にあって、販売促進とは違う観点に立つ「エシカル消費」の理念を、POP広告でどう表現するかは、実に難しい課題です。皆さんも、一緒に考えていただけませんか。
以上、今回は「自分を変える」と「新しいことへの取り組み」の2点について述べてみました。皆さん方のいっそうのご活躍を期待いたします。
令和5年(2023年)1月5日
一般社団法人日本POPサミット協会
会長 安達 昌人
明けましておめでとうございます。皆さん方には、お元気に新年を迎えられたこととお喜び申し上げます。
さて、今年の干支は「兎」ですが、今回は兎にちなんだ文章を綴ってみようと思います。
まず、干支の「卯」や「兎」の字体は、象形文字から転化したものと言われます。
「卯」は「同形のものを左右対称」に置いた象形で、同価値のものを交換する、左右に開いた門から入る、草木の芽吹きなどが想定され、十二支の第四位、兎の意味も表すようです。
「兎」はそのままウサギの象形で、今の文字からも想像できます。ぴょんと跳びはねるような姿態がイメージされます。
また、兎の数え方は一匹ではなく、一羽と数えます。一羽と数える由来は諸説ありますが、獣肉を食べることに宗教的な忌避感があった日本では、鳥の仲間だから食べて良いと、こじつけて呼んだという説が有力です。
日本ではこれまで、日常的に兎肉はあまり食用としませんが、フランス料理などでは人気の食材です。しかし、昔は日本でも食べていて、他にイノシシ肉などは「山鯨」と魚に譬えた隠語に変え、精が付く貴重な動物性タンパク質源としたようです。
ただし、今や人気のジビエでは、イノシシ、シカ、熊、そしてウサギと種類は豊富です。
兎が出てくる誰もが知る物語といえば「うさぎと亀」。実はイソップの寓話が元のようです。うさぎと亀が山の頂上を目指して競争しますが、途中でうさぎが居眠りしたため、亀が先にゴールして勝利を収めるという話。「どれだけ自分の能力に自信があっても、油断せずに物事に取り組むことが重要」という教訓です。
怖い話としては、おとぎ話の「かちかち山」。ある所にお爺さんとお婆さんが住んでいて、タヌキが畑でいたずらを繰り返すので、お爺さんがタヌキを捕獲して、「タヌキ汁」にしようとお婆さんに話します。お爺さんが出かけたすきに、タヌキはお婆さんをだまして殺し、「ばばあ汁」に料理してお爺さんをだまして食べさせます。ホラー映画もどきです。
相談を受けたウサギは復讐を企てます。ウサギはタヌキを芝刈りに誘い、背負った芝に後ろからボウボウと火を付けます。やけどを負ったタヌキに、唐辛子入りの味噌を薬だと言って背中に塗り、タヌキは痛みで苦しみます。さらに、ウサギはタヌキを漁に誘い、泥船に乗せて溺れさせます。助けを求めるタヌキをウサギは艪で沈めて溺死させ、復讐を果たします。
勧善懲悪のおとぎ話としては、あまりに残酷なストーリーです。一思いに成敗するのではなく、じわじわと陰湿なハラスメントによる懲罰です。
何故、タヌキはウサギを信頼し、疑わなかったのか。太宰治の小説「お伽草子」の中の「カチカチ山」では、タヌキがウサギに徹頭徹尾、惚れていたのだという、中年男の美少女への恋物語として描き、愚鈍なタヌキに心から同情しています。
この物語には、報復の連鎖が見られます。まず、生活を脅かすほどの被害でもないのに、爺さんがタヌキの命を奪い、食べてしまうという報復手段に出ますが、それが裏目に出て、最愛のお婆さんを失うばかりではなく、食べてしまうという残酷な悲劇を生み出します。
タヌキはお爺さんの意を受けたウサギの報復を受けることになります。もしも、お爺さんがタヌキを諭すだけにしていたら、このような報復の連鎖は生まれなかったでしょう。
この物語は、地球上から戦争がなくならない人間の社会を連想させます。戦争に使われる武器は、刀剣・弓矢から鉄砲、大砲、毒ガス、原爆へと次第に巨大化・狂暴化していきます。
ところで、兎は今やペットとして飼われますが、昔は畑に害を及ぼす野兎として見られたのでしょう。可愛いというより、ちょっと狡い動物とされています。
その物語が「因幡(いなば)の白兎」。「大国主命」という神様の国づくりにまつわる話の一部で、古事記にも描かれています。隠岐の島に住む兎が、因幡の国に渡るためにワニザメをだましてずらっと並ばせ、背中の上を渡って成功。しかし、いざ降り立とうという時に「お前たちは騙されたのさ」とからかったために、怒ったワニザメに毛皮をはぎ取られ、丸裸にされてしまう。通りかかった「八十神」といういたずら好きな兄弟の神様に「海水を浴びて、風と日光を浴びれば治る」と教えられ、その通りにして痛みはひどくなる一方です。
そこへ大国主命がやって来る。泣いている兎に「 真水で洗って、蒲(がま)の穂をつけておきなさい」と教えられ、するとたちまち傷が癒えて、毛も元通りになるという話です。
この神話の教え諭すところは、「不正直への戒め」と「思いやりの心を持っていれば、幸せな結末が待っている」ということでしょう。昔の説話には、常に教訓が伴うものです。
私事ですが、昔、経営・設計・デザインの研究所に勤めていたことがあり、年末になると、「お年玉付き年賀はがき」用に、その年の干支を描いた2種類ほどのデザインを作り、得意先の商店にチラシを送って宣伝しました。すると、洋品店、菓子店、飲食店などの商店の得意先が、自店の顧客名簿をもとに枚数を申し込みます。
当時のお年玉付き年賀はがきは、当選率が高く、しかもミシンや洗濯機など豪華賞品が目玉の人気媒体でした。商店にとっても、年賀状は顧客への一年の感謝の大切な挨拶状です。
こうして、流行りの筆ペンで顧客の宛名が書かれた年賀状が次々と届きます。所長が研修で各地を回って広報するので、その数は多く、一店平均200枚としても50店で1000枚ほどの年賀状が集まります。所員の中の二人がそれを持って、例えば「戌(いぬ)年」には、「忠犬ハチ公」(秋田犬)出身地の秋田県大館市の郵便局に運んで投函します。はがきには「今年の干支の○○にゆかりの○○町にて投函」という独自のスタンプを作って、押印します。
卯年の時には、兎を助けた大国主命を主神とする「出雲大社」の町の通便局に、私ともう一人が夜行列車で運びました。驚いたのは大量の年賀状を持ち込まれた郵便局です。今は省略されていますが、当時は年賀状一枚一枚に消印が押されました。しかし、局長はどこでも、快く引き受けてくれました。年賀状のはがきDMを届けた二人は、その町に泊り、ゆっくりと旅を楽しみます。いわば、ご褒美です。毎年、所員がペアを組んで順に各地へ旅しました。
チラシ・DMの紙媒体が宣伝物の主流だった時代の、アイデアマンだった所長の企画です。
時を経て、今やデジタルメディアの時代。所長ならどんな活用をするだろうか、と想像します。また、自分自身でもIT系で工夫を練ることは、実に楽しい時間だと考えています。
令和5年(2022年)9月6日
一般社団法人日本POPサミット協会
会長 安達 昌人
9月9日は「POPの日」(一般社団法人・日本POPサミット協会提唱)です。POP広告に関わる人にとって、記念すべき日だと考えます。
ちなみに記念日には、その商品や行事の起因となった期日や、日時の語呂合わせなどが基になったものがほとんどで、例えば、11月1日は「ワンワンワン」という鳴き声にちなんだ「犬の日」(一社・ペットフード協会)など、特にユニークな語呂合わせが話題になります。
ところで「POPの日」は、「909」の形から来た発想です。数字体を活かした例としては、10月10日の「目の愛護デー」(中央盲人福祉協会制定)。1010の数字を半分に分けて、それぞれ90度右に回転させると二つ並んだ眉と目の形になります。1947年に制定されていますから、長い歴史を持つ記念日です。
では「POPの日」は誰が発案者かと言うと、日本POPサミット協会の設立者であり、顧問であった故今津次朗先生です。かつて、手描きPOP広告全盛時代に、今津次朗、秋葉雄幸、中山政男、笠原正久、荒木淳(敬称略)の諸氏と一緒に「手造りPOP広告グループ」を結成し、交替で講師を務めて公開セミナーや研究会を盛んに実施したことがあります。
その席上で、今津先生が「9月9日はPOPの日です」と宣言し、その提唱に一同が感心したものです。「9」を反転して「P」と見るのは、面白い着想です。
ついでに言えば、アメリカの広告代理店「POPAI(POP広告協会)」と関連を持っていた川上嘉則氏が「POPをポップと呼ぶのは誤りで、米国ではポップはポピュラー音楽の略語、ピーオーピーと発音するのが正しい」と強調して、皆もそれにならうようにしました。
(日本POPサミット協会も、POPをピーオーピーと発音します。)
さて、アメリカのPOPAIが創り出したメーカー主体のPOP広告が日本に紹介されるや、たちまち商業者サイドの手描き売り場広告として全国に普及し、活況を呈しました。日本人本来の器用さと、それまでにポスターなどを描いてきた慣習から、筆を持つことに抵抗がなく、スムーズに売り場に取り込んだのでしょう。マジックインキ(株式会社内田洋行)の発売も、手描きに拍車を掛けました。欧米では、タイプライターの普及により、ペンで文字を書く習慣が早くに失われたと言われます。
その商業者サイドのPOP広告も、消費者志向の高まりによって、「売る」ツールから「買う」ツールへと、購買者サイドの媒体に進展して来たのは周知のとおりです。本来、POPの末尾の「P(Purchase)」は「買う・購買」という意味を持っています。
ところが、1995年にMicrosoftの「Windows95」が発売されたころから、パソコンが一般に定着し、パソコン作製のPOP広告が売り場を席捲するようになりました。誰にも容易に作れて、先端を行く目新しい売り場のツールに映りました。今もパソコン製が、売り場に掲示されているPOP広告の大半を占めています。チラシも簡単に作れます。
パソコン作成のメリットとしては、統一感、明瞭さ、手軽さが挙げられますが、デメリットとしては画一的で、活字印刷による単調さなどでしょう。
しかし、ある事件をきっかけに、手描きPOP広告が復活します。
これは今や伝説となっていますが、千葉県習志野市の書店「BOOKS昭和」の副店長木下和郎氏が、自分が感動した文庫本「白い犬とワルツ」(新潮社)に、手描きPOP広告を付けたところ、急激に売れ始めたのです。それほど人気の無かった同書が、何故この店だけ突出して売れるのかと、不思議に思った新潮社の営業マンが視察に来て、手描きPOP広告を見たのです。2001
年夏のことです。
新潮社は手描きPOP広告に効果があると知って、これをコピーさせてもらい、全国の書店に販促物として配りました。それから半年ほどで「白い犬とワルツを」は、150万部というベストセラーになったのです。
(当時の書店業界情報より)
「書店員が熱意を込めて推奨した本は売れる」とは、それ以前から言われ、実行する書店は少なくなかったようです。しかし、このニュースが、手描きPOP広告が販売促進の重要なツールとして認知され、復興の一つの契機となったことは明らかです。「読者が一人かもしれないという本にこそPOPを書く」とは、木下氏の言葉ですが、味わい深い文言だと思います。当時は、すでに新刊本の売れ行きが下落している傾向にあり、「現場で本を売る書店員こそ市場回復のキーマン」とみなされ、2004年には、全国の書店員の投票で選ぶ「本屋大賞」も生まれています。この話題は、書店業界ばかりでなく広く流通業界に知れ渡りました。
手描きPOP広告は、販売者の立場にあっては、自店の商品やサービスのメッセージに、手描きならではの独自性、即時性、注目性が活かされます。パソコン作製のプリントされた紙面とは違う、作る人の生(なま)の声が聞こえで来るようです。顧客の立場としては、商品の基礎的な知識から、ハイライフに活かせる有用で新鮮な生活情報を得ることが出来ます。まさに双方コミュニケーション媒体です。いわば手描きPOP広告は、日本独自の商業文化だと言えます。
今や、ブラックボードも普及し、手で描くことが日常的になってきましたが、パソコン作成が主流の陰で、手描きPOP広告に長い潜伏期間があったために、表現法の知識やスキルがまだまだ低いことは確かです。圧縮陳列で知られるディスカウントストアの広告が話題になりますが、それがPOP広告の描き方の基本だと思い込んでいる人もいます。また、訴える内容を重視して、表現を二の次にしている例も多く見られます。
しかしPOP広告は、メッセージ情報の重要性とともに、購買者にいかに効果良く見てもらい読んでもらうかの視覚性も同様に肝要です。顧客の関心を呼び、心に響かせ、購買に結び付けていくためには、その両輪の働きが大切であるかは、言うまでもないことでしょう。
手描きPOP広告を指導する人には、そうした心得と責任が肝心だと言えます。
このように、「声の聞こえる」手描きPOP広告は、店舗の販売促進の一つのツールであると同時に、POP広告からさまざまな販売促進活動が創出され展開されます。さらに、流通業界だけに限らず、介護施設から医療施設、交通機関、地域物産の販売所、モノ造りの現場、イベント会場、公共機関に至るまで、地域社会の各所で、いわゆる「パブリックPOP」としての多様な活躍が期待されます。つまり、きわめて広いキャパシティーを持つ媒体です。
といったわけで、「POPの日」に当たり、その大きな効果と役割を、今一度しっかりと確認していきたいと望む次第です。