令和2年(2020年)1月21日
一般社団法人日本POPサミット協会
会長 安達昌人
こんにちは! 寒い真冬の日々ですが、皆さんは最近、銭湯に行ったことがありますか? 今や銭湯は、住宅街からすっかり姿を消してしまいましたが、昨年、サミット(全国大会)を開催した東京下町の北千住には「梅の湯」「タカラ湯」「大国湯」など、今も8軒の銭湯が健闘していて、「銭湯愛好会」などの熱心なファン層で賑わっているようです。
ちなみに全国の銭湯(一般公衆浴場)数が、2000年(平成12年)度には2万6732軒であったものが、2018年(平成30年)度の時点では3535軒と大幅に減少しています。ただ、スーパー銭湯、日帰りスパなどの大型温浴施設の「その他の公衆浴場」は、現在、2万軒超で推移している状況です。(厚生労働省・衛生行政報告例)
銭湯といえば、まず湯船(浴槽)に富士山の絵、椅子と風呂桶ですが、「ケロリン桶」という風呂桶を知っていますか? 先の北千住の「大黒屋」では使われています。黄色のプラスチック製の桶で、桶の中に「ケロリン」の赤い文字が印刷されています。
かつては、木製の椅子とともに天然素材の木桶が使われていましたが、重い上に、洗って乾かすのが大変。さらに衛生上の問題から、しだいに合成樹脂製の椅子や桶に切り替わるようになりました。
そこに目を付けて開発されたのが、内外薬品株式会社(富山市)の「ケロリン桶」で、1963年の製造開始です。すなわち、同社の鎮痛剤「ケロリン」の拡販を狙った広告媒体として登場したものです。最初に「ケロリン桶」が置かれたのは、当時の東京駅八重洲口にあった「東京温泉」(出張帰りのサラリーマンの癒し処でした)。その後、衛生的で堅牢なこの商品は好評を博して、たちまち全国各地の銭湯、温泉旅館、民宿、ゴルフ場などの施設に、湯桶の定番として広まりました。販売総数は発売以来、今日まで50数年間で約270万個に及び、製造数は今も変わらず、年間5万個とされています。(内外薬品情報誌)
これはいわば、マーケティングの4P(Product、Price、Place、Promotion)のまさにPlace(流通)の活用によるものです。日用品店頭ではなく、浴場を訴求の場としたのは、巧みな戦略といえます。各地の銭湯、温泉場に出張する営業マンは楽しかったことでしょう。
当時、一戸建て住宅やマンションが普及するまでは、銭湯は一日の汗を流す地域の憩いの場であり、住民のコミュニケーションの拠点でした。
さらに、脱衣所に掲示されるポスター(風呂ポス)は、広告媒体として効果はきわめて高く、街の商店が新商品やバーゲンを告知し、ポスターカラーでカラフルに手描きされていました。
ところで、ケロリン桶は製造当初は白色でしたが、湯垢による汚れが目立つために、後に現在の黄色に改められています。また、印刷がプラスチックの表面ではなく、内部に埋め込まれる「キクプリント」という技術を採用しているために、文字が消えないそうです。
さらに、湯桶のサイズが関東用(直径225mm×高さ115mm)、関西用(同210mm×同100mm)といったように違います。これは、関東と関西では銭湯のスタイルが異なり、関東は蛇口の並ぶ洗い場があって、奥に湯船があるのに対し、関西では入ってすぐに湯船があり、湯船から桶で湯を汲んで、掛け湯をする習慣があるため、湯が入り過ぎて重くならないように、関西用が少し小さくなっているとのことです。いわば、4PのProduct(製品)の配慮といえます。
ケロリン桶は、Amazonなどの通販でも1,500円ぐらいで販売され、家庭でも愛用されています。そのため、最近はキャラクター入りの楽しいデザインも見られます。
さて、先に銭湯ポスターのことに触れましたが、今は形を変えて「銭湯ポスター総選挙」として話題を呼んでいます。
公益財団法人「日本広告制作協会」が、「クリボラ(クリエイティブ・ボランティア)」の一環として、年々減少する全国の銭湯を支援する意図で、2017年から実施。大災害時の避難所の役割や地域のコミュニティ機能を果たす銭湯をアピールし、銭湯に訪れる人を増やそうと、「湯船に浸かって鑑賞できるポスター展」を企画・実施しているもの。ポスターは脱衣所ではなく、浴室内の壁面に掲示され、来湯者による人気投票など、これまで大きな反響を呼んでいます。
「銭湯ポスター総選挙2019」は、公募による56点の作品を、9月28日、東京・北千住の「タカラ湯」を一番目の開催場所として、北海道から福岡市まで、全国10都道府県16銭湯(前年は10銭湯)で開催されました。ポスターは男湯・女湯にそれぞれ28点ずつ展示し、期間中に入れ替えています。
そして、12月6日に広島県呉市の銭湯「赤ビル温泉」で終了。総得票数は、4,442票!人気投票の1位並びに2位の2作品と、主催者の審査員が選んだ3作品の計6作品が受賞しています。これらの作品は印刷されて、2020年初頭に全国の銭湯に配布されるとのことです。受賞作品など詳しくは、http://kuribora.oac.or.jp/2019/をどうぞ。
広告メディアは、今やデジタル時代ですが、こうした地域死活者のすぐ近くに見られる地道な媒体も捨てがたいものだと思います。
会員の皆さんも、この冬には、ぜひ銭湯を楽しんでみませんか。そして、今年度のコンペに応募するのも、一つのクリエイティブ活動だと考えます。
※写真は、(公財)日本広告作製協会ホームページより。