令和元年(2019年)9月8日
一般社団法人日本POPサミット協会
会長 安達 昌人
9月9日は「POPの日」(一般社団法人 日本POPサミット協会提唱)です。POP広告に関わる人にとって、記念すべき日だと考えます。
ちなみに記念日には、その商品や行事の起因となった期日や、日時の語呂合わせなどが基になったものがほとんどで、11月1日の「ワンワンワン、犬の日」などの特にユーモラスな語呂合わせが話題になります。
ところが「POPの日」は、「909」の形から来た発想です。数字体を活かしたものを他に探してみると、10月10日の「目の愛護デー」ぐらいで、1010の数字を90度右に回転させると、二つ並んだ眉と目の形に。1931年(昭和6年)に、中央盲人福祉協会が視力保護活動として制定したとされますから、長い歴史を持つ記念日です。
では「POPの日」は、どなたが発案したのか? 日本POPサミット協会の設立者であり、顧問であった故今津次朗先生です。かつて、手描きPOP広告全盛時代に、今津次朗、秋葉雄幸、中山政男(敬称略)の諸先生方と集まって「手造りPOP広告グループ」を結成し、交替で講師を務めて公開セミナーや研究会を盛んに実施しました。
その席上で、今津先生が「9月9日はPOPの日だ」と宣言し、その着想に皆が感心したものです。ついでに言えば、アメリカの広告代理店「POPAI(POP広告協会)」と関連を持っていた川上嘉則氏が「POPをポップと呼ぶのは誤りで、米国ではポップはポピュラー音楽の略語、ピーオーピー広告が正しい」と強調して、皆もそう発音するようにしました。また、中山氏は「『手書き』ではなく『手描き』と自分はしている」と主張しました。手描き書体のオーソリティを自認していた笠原正久氏は、POP広告の書体は図案だとして標準の書き順を否定し、効率よく描くレタリングを実演して見せました。
さて、アメリカのPOPAIが創り出したメーカー主体のPOP広告が日本に紹介されるや、たちまち商業者サイドの手描き売り場広告として全国に普及し、活況を呈しました。書道教育による慣習と、日本人本来の器用さとこまめさで、筆を持つことに抵抗がなく、スムーズに売り場に取り込まれたのでしょう(欧米では、タイプライターの普及により、ペンで文字を書く習慣が早くに失われたと言われます)。
その商業者サイドのPOP広告も、消費者志向の高まりによって、サービスサインなど購買者サイドの媒体に進展して行きました。また、旅行代理店や不動産業者など、広い範囲の業界にも波及しています。
ところが、1990年半ばにパソコンが定着すると、誰もが容易に作れるパソコン作製(デジタルPOPと呼ぶ人も)が売り場を席捲するようになり、今も掲示されているPOP広告の大半を占めています。メリットとしては統一感、明瞭さ、手軽さが挙げられますが、デミリットとしては画一的で、活字印刷による単調さなどでしょう。また、インク代などかなりのコストを要します。
しかし、その後、書店員が自分の選んだ本を推奨するPOP広告の、手描き効果が流通業界で注目され、喧伝されたのがきっかけで、再び手描きPOP広告の特性と効果が見直され、その活用が高まって来たのは周知のとおりです(出版業界では、書店員の投票による「本屋大賞」の設立にもつながりました)。加えて、ブラックボードPOPの注目性、新鮮さ、楽しさ、描いて消せる経済性などが、手描きに拍車をかけていると言えます。
手描きPOP広告は、販売者の立場にあっては、自店の商品やサービスのメッセージに、手描きならではの独自性、即時性、注目性が活かされます。顧客の立場としては、商品の基礎的な知識から、ハイライフに活かせる有用で新鮮な生活情報を得ることが出来ます。まさに双方コミュニケーション媒体です。
いわば手描きPOP広告は、日本独自の商業文化だと言えます。
とはいえ、大型店などの現状では、パソコン作成が主流であり、手描きPOP広告に長い潜伏期間があったために、また昨今の「書く(描く)」機会の少なくなった時代のために、表現法の知識やスキルが低下していることは確かです。圧縮陳列で知られるディスカウントストアの広告が話題になりますが、それがPOP広告の描き方の基本だと思い込んでいる人もいます。また、訴える内容を重視して、表現を二の次にしている例も多く見られます。
しかしPOP広告は、メッセージ情報の重要性とともに、購買者にいかに効果良く見てもらい読んでもらうかの視覚性も同様に肝要です。顧客の関心を呼び、心に響かせ、購買に結び付けていくためには、その両輪の働きが大切であるかは、言うまでもないことでしょう。
手描きPOP広告を指導する人には、そうした責任と心遣いが肝心だと言えます。
「たかが○○、されど○○」という慣用句がありますが、まさに「たかが手描きPOP広告、されど手描きPOP広告」というわけで、店舗の販売促進の一つのツールであると同時に、POP広告からさまざまな販売促進活動が創出され展開されます。さらに、流通業界だけに限らず、介護施設から医療施設、交通機関、農産物の販売所、モノ造りの場所、イベント会場、公共機関に至るまで、地域社会の各所での多様な活躍が期待されている貴重な媒体です。
といったわけで、「POPの日」に当たり、その大きな効果と役割を、今一度しっかりと確認していきたいと望む次第です。
以上