令和元年(2019年)7月9日
一般社団法人日本POPサミット協会
会長 安達 昌人
「軽減税率制度」について知っていますか? いよいよ本年 10 月 1 日から、消費税の8%→10%への引き上げが実施される予定です。
それに伴って登場するのが「軽減税率制度」です。国税庁の説明は、少し堅苦しくて理解しにくい面があります。そこで、ここでは簡単に要点を述べてみたいと思います。
まず、「軽減税率制度」を導入する目的は何か。消費税を 10%増税することに対して、所得の低い層への負担を軽くするために、生活必需品の飲食料品は8%に据え置きにするという仕組みです。確かに、毎日の食事を考える主婦にとってはありがたいことで、ふだん、スーパーやコンビニで食料品の買い物をする人は影響を受けずにすみます。
ちなみに、海外ではすでに、軽減税率法を取り入れている国が多く見られます。
例えば、
・イギリスでは・・・標準税率 20% 食料品の税率 0%
・フランスでは・・・標準税率 20% 食料品の税率 5%
・カナダでは・・・・標準税率 5% 食料品の税率 0%
・中国では・・・・・標準税率標準税率 17% 食料品の税率 13%
といった状況で、食料品の税率 0%の国があるのは驚きです。
では、対象品目となるのは、どんな品か。実は、面倒なのは、飲食料品といっても、軽減税率の対象になる品と対象外の品があり、その線引きが分かりにくいことです。要するに、嗜好性の高いもの、高級食品などは対象外になるということです。
軽減税率・標準税率 対象品目の線引き | |||
8%(軽減税率) | 10%(標準税率) | ||
飲食料品 |
●精米、青果、精肉、鮮魚、乳製品、パン類、菓子など ●食用の氷、ミネラルウオーター ●ノンアルコール、甘酒、みりん調味料(アルコール分1%以下) ●条件をクリアした一体資産 |
飲食料品に該当しない |
●家畜用動物、観賞用の魚 ●保冷用の氷、ドライアイス ●水道水 ●酒類(ビール、ワイン、日本酒、みりん、調理酒など) ●一体資産(条件付き) |
飲食料品の譲渡 |
●テイクアウト、出前、宅配 ●学校給食、有料老人ホームなどで提供される食事 ●ホテルや旅館の客室冷蔵庫内の飲料 ●果物狩りで収穫した果物の購入 |
飲食料品の 譲渡に該当しない |
●外食=レストラン、ケータリング、屋台などでの食事 ●社員食堂、学生食堂での食事 ●ホテルのルームサービス ●果物狩りで収穫した果物の果樹園内での飲食 |
新聞の譲渡 | ●週2回以上発行される定期購読の新聞 | 新聞の譲渡に該当しない | ●電子版の新聞、コンビニなどで販売される新聞 |
その他 |
●サプリ、健康食品、美容食品 ●日用品、薬品、医薬部外品 |
●日用品、薬品、医薬部外品 |
表にまとめてみると、上のようになります。国税庁の文書には「譲渡」という意味の良く通じない言葉が使われていますが、あまり気にしないことにします。
さて、実際問題として、よく例に出されるのが、イートインスペースの飲食です。最近は、コンビニでもイートインスペースが設けられていますが、弁当などテイクアウトは軽減税率が適用されますが、イートイン(食事の提供)で、その弁当を食べる場合には、10%の標準税率が適用されます。「食事の提供」とは、椅子・テーブルなどの飲食設備がある状態です。
酒類は、生活に必須な品ではなく、嗜好品なので対象外であり、10%の標準税率ですが、ノンアルコールビールや甘酒、みりん調味料など、アルコール分が 1%以下のものは酒類ではないので、対象品目となります。
一体資産とは、例えば紅茶の茶葉とティーカップのセットのように、飲食料品とそうでないものがセットで販売されている品物です。軽減税率の対象となるのは、全体の価格が 1 万円以下、商品の売価または原価の中で飲食料品の割合が 3 分の 2 以上の、この 2 つの条件をクリアしたものです。
テイクアウトは、例えばファーストフードの牛丼店で、店内で食べずにテイクアウトすれば、軽減税率の対象品目となります。テーブルのある洋菓子店、パン店、ハンバーガーショップなどでもすべて同じで、宅配ピザや寿司の出前も対象です。
有料老人ホーム、学校、幼稚園の給食は軽減税率の対象ですが、ただし、1 食につき 640 円以下で、1 日に 1,920 円までが上限です。
毎日の配達を契約している新聞は、「週に 2 回以上発行して、政治、経済、社会、文化などの一般社会的事実を掲載していること」と「定期購読」が条件となります。つまり「生きるために必要な情報を提供する」ということから軽減税率の対象となったのでしょう。
サプリメントは「健康補助食品」なので「食品」の分野です。健康食品、コラーゲン飲料、ダイエットフード、美容食品も「医薬部外品」ではなく「食品」となっている場合は、軽減税率の対象品目です。しかし、風邪薬や胃腸薬など医薬品の対象外は理解できますが、シャンプー・リンス、ラップ、ティッシュ、トイレットペーパー、歯ブラシなどの生活必需の日用品が軽減税率の対象外品目というのは、ちょっと首をかしげるところです。
この他にも、軽減税率制度はまだまだ多くの問題をはらんでいます。
メリットとしては、前述のように、消費者がふだんの飲食料品の買い物には影響がないことと、今後、節約志向で、外食を控えて中食や内食が増えるということでしょう。
ただし、販売店には大きな負担がかかります。スーパーマーケットの場合、消費税率8%のままの商品と、10%の商品が並ぶことになり、軽減税率は複数税率とも呼ばれます。自店のすべての税率を把握して、9 月 30 日の夜には一斉に価格表示の変更が必要です。また、経理事務を大幅に変更することになります。税率や税額を記載するための請求書の「インボイス」の導入義務があります。「インボイス」とは、簡単に言えば「製品ごとに細かく記載された納品書や請求書」のことです。経理対応レジや新システムの導入が必要で、期限が迫ると、そのメーカーの混雑が予想されるので早めの対策が肝心です。受発注システムを改修したり、新たなレジを購入する場合には公的な補助金(経理対策補助金)を受けることもできます。
さらに、従業員教育が重要です。軽減税率を理解していない消費者がいることを予想して、質問に対応できる知識と、販売時点にあって軽減税率が適用される品か否かの判断力が肝心です。その他、食品メーカー、問屋とのリベートや報奨金など、複雑な問題も山積みです。
以上、簡単に軽減税率制度の概要を述べましたが、詳細については、サミット(全国大会)で専門家の講義を計画している次第です。
以上