平成31年(2019年)2月27日
一般社団法人日本POPサミット協会
会長 安達昌人
「やさしい日本語」を知っていますか? すでに知っている人も多いと思いますが、ここでもう一度、おさらいしてみたいと思います。
「やさしい日本語」が生まれたきっかけは、1995年の阪神淡路大震災の際に、日本人負傷者数が100人当り0.8人であるのに対して、在日外国人が2.12人と倍以上の被災であったことから(〈財〉都市防災研究所の調査)、言葉による緊急時の情報対応の未整備が課題となり、外国人への避難誘導などを分かりやすく伝えるために考案されたものです。現在では行政窓口や観光などに浸透してきています。
いわば、「外国人への言葉のユニバーサルサービス」とされています。
ところで、法務省によれば、2018年6月時点での在留外国人数は263万7千251人(同年12月公開)。今年4月の改正入管難民法の施行で、さらに増えると予想されます。
日本では外国人には英語で話さなければと身構えますが、実は英会話が通じるのは(英語圏の人達は)全体の約2割と言われています。むしろ「やさしい日本語」なら6割超が理解できるという調査結果があり、これを共通言語とすれば、より多くの在留外国人と意思疎通が図れるというものです。
この「やさしい日本語」を考案したのは、弘前大学社会言語学研究室。なぜ、弘前大学かというと、方言研究で培ってきた調査方法と、国際社会における日本語の役割研究の蓄積をもとに、国際化への具体的な対策として「やさしい日本語」を提案できるのではないかとの考えで、今も学生たちが中心となって継続的に取り組んでいます。
そして今や、特に医療機関では「やさしい日本語」普及活動が盛んで、例えば昨年12月には、順天堂大学の企画により埼玉県三芳町公民館で講習会が持たれ、地元の医師や看護師、外国にルーツを持つ地域住民など約70人が集まったとのことです(東京新聞報道)。
医療現場での「やさしい日本語」例として、「アレルギーはありますか」は「体がかゆくなったり、赤くなったりしますか」、「横になってください」は「寝てください」などと言い換えます。「座薬」は「尻に入れる薬」で、「お」を付けた敬語は使わない方が良いとのこと。
確かに外国語に比べて日本語は表現が多様で、外国人にはなじみにくい言語でしょう。
「やさしい日本語」は各界に波及して、県・市などの自治体発行のレポートを始め、関連書籍も多く出版されていますが、インターネットでダウンロードできます。以下にそのいくつかを紹介しましょう。
●増補版「やさしい日本語」作成のためのガイドライン(弘前大学社会言語学研究室)
http://human.cc.hirosaki-u.ac.jp/kokugo/ejgaidorain.html
●「やさしい日本語の作り方」(埼玉県)
https://www.pref.saitama.lg.jp/a0306/tabunkakyousei/documents/2016yasashiinihongonotsukurikata.pdf
●「やさしい日本語の手引き」(愛知県)
http://www.pref.aichi.jp/kokusai/easyjapanese/tebiki.pdf
さて、私たちは今後、医療・医薬関係やユニバーサルサービス関連のPOP広告に取り組む機会が、さらに増えてくるでしょう。災害に備えて外国人への表示も心得たいものです。
そこで「やさしい日本語」作成のためのガイドライン(弘前大学社会言語学研究室の資料)から「作成ルール」と文案例を見てみましょう。
(1) の難しい言葉を避けるのは、言うまでもないでしょう。助詞の使い方にも決まりがあり、例えば「川に行かないでください」⇒「川(かわ)へ 行(い)かないで ください」というように、方向を表すものは「へ」を使います。
(2)の区切りと分かち書き、(3)の文を短く構造を簡単にとは、「余震が起きる恐れもあるため、余震に対して十分に注意してください」⇒「余震(よしん)〈後(あと)から 来(く)る 地震(じしん)〉に 気(き)をつけて ください」というように、主語と述語を一組だけ含む文にし、文章を区切って余白を空け、余震など難しい言葉には説明をつけます。
(4)の句読点は、見やすくするために適宜用います。
(5)の漢字の量は1文に3~4字程度を目安とし、すべての漢字にふりがなをふります。
(6)の外来語は、例えば「ダイヤル」は英語と発音が異なるために伝わり難く、「ライフライン」は日本では、電気・ガス・水道など生活に必要な設備を意味しますが、英語では「命綱」のことで、誤解されないように、外来語は気を付けて使う必要があります。
(7)の擬態語の「ふわふわ」「サクッ」などキャッチコピーの決め手ですが、外国人には伝わらないので、避けた方がよいとのこと。
(8)の動詞を名詞化したものとは、「揺れがありました」⇒「揺(ゆ)れました」のように、動名詞ではなく、動詞を使うことになります。
(9)の二重否定は、「通(とお)れないことはない」⇒「通(とお)ることが できます」と改正。
(10)の曖昧な表現とは「おそらく~」「~のようです」「~ではないでしょう」などは不適切。確実でないことをどうしても書かなければいけない時には、ここでは「~かもしれない」を推奨しています。
(11)のローマ字については、日本で通用するアルファベットの当て字なので使わない。ただし駅名、地名などの固有名詞は別。
(12)の重要な言葉は、先の「余震(よしん)」など。他に「避難所(ひなんじょ)〈みんなが 逃(に)げる ところ〉」、「津波(つなみ)〈とても 高(たか)い 波(なみ)〉」などと〈〉で言い換えを付記します。
(13)の文末表現の統一は、可能の場合は「~できます」、不可能の場合は「~できません」、指示の場合は「~してください」となります。
(14)の時間の表現は12時間表示で、21時30分⇒午後(ごご)9時(じ)30分(ふん)、日時の表現は西暦で表現し2019/03/01⇒2019年(ねん) 2月(がつ)25日(にち)と表示。スラッシュは使いません。
以上、「やさしい日本語」の概要と文例のいくつかを見てきましたが、私たちのPOP広告作成にそのまま適用できるものではないにしても、共通する要素は多々あります。また、災害時の外国人の方への配慮ばかりでなく、来日外国人を迎える店舗づくりやユニバーサルサービスの観点にあっても、学ぶべき課題だと思います。
ぜひ、大きな関心を持って、「やさしい日本語」のコンセプトに取り組んでいこうではありませんか。
以上